「早発閉経と2型糖尿病の有無による女性の心血管疾患リスクはいかに!?」という論文を簡単にまとめてみます。Diabetes Careという糖尿病専門医学専門雑誌(世界トップクラス)の論文です。
この研究は、9,374人の閉経後女性を対象にされた研究となります。早発閉経と心血管疾患リスク、および2型糖尿病の有無との関連について調査したものです。
Diabetes Care 2021;44(11):2564–2572
今回の題材の論文名は「Early Menopause and Cardiovascular Disease Risk in Women With or Without Type 2 Diabetes: A Pooled Analysis of 9,374 Postmenopausal Women」Diabetes Care 2021;44(11):2564–2572
結論から言います。
「閉経後の女性において、早期閉経は心血管疾患(CVD)のリスクが増加することが示された」
どういうことなのでしょうか。
皆さんの中で、月経が周期的にこない、3か月以上来ていない方がいるかもしれません。
もしかすると、その症状は「早発閉経」かもしれません。
閉経を迎える年齢は50歳前後のイメージがあるかもしれませんが、40歳未満でも自然と閉経になる方もいらっしゃいます。
その割合はなんと、30歳未満の1,000人に1人、40歳未満の100人に1人と言われています。(統計より多少の違いはあれど概ねこのような確率でよいかと思います。)
決して他人事とは言えない数字です。
そもそも「早発閉経」とは何か?
早発閉経とは「早発卵巣不全」といって、「40歳未満で卵巣機能が低下して無月経、つまり月経が3か月以上こない」となった状態を指します。
つまり、40歳未満で自然と閉経になり、月経がなくなるということです。
早発閉経の初期症状として「月経不順がみられることが多い」です。
月経不順とは、以下のような状態
- 月に2回月経が来る
- 月経が2日以内で終わる、もしくは8日以上続く
- 月経周期が24日以内と短い、もしくは39日以上と遅れがち
など
月経がなくなる前後から出る様々な症状
- 顔のほてり、のぼせ、発汗、ホットフラッシュ
- めまい、頭痛、動悸、倦怠感、肩こり、手足の冷え
- イライラ、情緒不安定、不眠、意欲の低下
など
最終的には、無月経(月経が3か月以上ない)の状態になります。
早発閉経の原因は、卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲン)の量が早期に低下することが主な原因です。
その原因の75~90%は不明ですが、10~15%程度は以下のような要因が関与していると考えられています。
- 自己免疫疾患:甲状腺炎、副甲状腺機能低下症、白斑、悪性貧血など
- 染色体異常:ターナー症候群など
- 医原性:卵巣の手術、化学療法、放射線照射など
- 感染性:水痘、結核、サイトメガロウイルス、ムンプス卵巣炎
- その他:糖尿病、喫煙
など
「早発閉経は、これらの要因によって引き起こされる可能性」があります。
グラフの意味は結構難しいのですが、以下が結果です。
上記の図は理解しなくてもいいですが、1.0を超えた部分は「早期閉経が心血管イベント」が増加していたという結果です。
ハザード比は、「年齢、人種、コーホート指標、教育、喫煙状況、飲酒状況、BMI、平均血圧、平均総コレステロール、降圧薬、脂質降下薬、ホルモン療法の使用歴、妊娠歴、および2型糖尿病(T2DM)」で調整されました。
わかりやすく言うと、いろんな交絡因子、つまり「年齢、喫煙、肥満、コレステロール値の高さ」とかも心血管イベントを増加させますのでそれらの、統計の邪魔をする因子(交絡因子)を調整済みということです。
これらの交絡因子を調整しない論文は、エビデンスレベルが低いことになります。それはそうかと思います。
「喫煙が心血管イベントを増加させているかもしれないじゃん!」、「年齢で心血管イベント増加しているかもしれないじゃん!」と読者からツッコミが入るからです。
なので必ず良い論文は「あらゆる心血管イベントの要因となる因子で補正」しています。
この研究の強みは10,000人近くの解析であり、3つの大規模で多民族のコホートを使用した、2型糖尿病の状態と人種による早発閉経とCVDの関係を調査するなのですが、「本研究は観察的なデザインであり、因果関係を確立することはできない」という限界点があります。
つまり、「早期閉経」と「CVD: 心血管イベントリスク」の間の関連性は複雑であり、他の未知の要因や共変量が関与している可能性があるということです。
将来的な臨床試験や疫学的研究による追加の調査が必要と思われます。
大体、こういうオチなのですが…。
この研究は結果を見ただけなので因果関係、原因は明らかにできない研究なのです。
一般的な知識として「T2DMは閉経後女性で最も一般的な慢性疾患であり、心血管イベントの重要な予測因子」ということは知っておく必要があります。
ただ、論文内には以下が原因として挙げられるのでは無いか?という「推定の理由」は記載されています。
「閉経後の女性において、早期閉経は心血管疾患(CVD)のリスクが増加することが示された」という結果の理由(推定)
閉経すると…
- 腹部脂肪の増加
- インスリン抵抗性の増加
- 脂肪肝が悪化
- エストロゲンの不足は血糖のホメオスタシスを変化させ、閉経中にはコルチゾールの増加により血糖コントロールがさらに悪化する。これは動脈硬化症を促進し、閉経後の心血管イベントに関連する。
などなど…
あくまでもこれまでの論文をかき集めた「推定」です。
いろいろと論文が出てきます。
「早期閉経」のみならず、「閉経」自体が血糖状態を悪化させ心血管イベント(心疾患、脳卒中)を増加させる事も論文を読むと知識として論文には盛り込まれています。
なんて、また偉そうに論文をまとめてみました(^o^)
以上!
新宿内科 糖尿病・生活習慣病クリニック(新宿駅徒歩3分・西新宿駅徒歩2分)
統括院長 松谷 大輔拝
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