糖尿病内科医の備忘録

〜心筋梗塞・脳梗塞にならない知識🖋を届ける〜

【重要:ジャディアンス®(SGLT2阻害薬)の心臓の動きが保たれている心不全患者への絶大なる効果🔥 EMPEROR-Preserved 試験】

なんと…糖尿病治療薬SGLT2阻害薬のジャディアンス®の心臓への効果は…。すごすぎた…🔥

【論文名】
「Empagliflozin in Heart Failure with a Preserved Ejection Fraction」

(N Engl J Med . 2021 Oct 14;385(16):1451-1461.)

 

【雑誌名】神レベルの雑誌(2021年現在の雑誌の点数、インパクト・ファクターは、驚異の176.079!一本この雑誌に通ったら下手したら東大以外の医学部の教授になれます🔥

「The New England Journal of Medicine」

 

 まずは結論から言いましょう。

【結論】

 SGLT2阻害薬である「ジャディアンス®」は、心臓が血液を効果的に体に送り出す力(駆出率)が保たれた心不全患者において、心臓の病気による死亡率、または心不全による入院のリスクを減少させました。

 

 この効果は、「糖尿病の有無にかかわらず、一貫して見られました!!」

 

 つまり、「糖尿病がない人で血糖値が正常な人に投与しても心血管死、または心不全による将来の入院率が低下」したのです。

 

 

 

 

グラフ
縦軸:①心血管死、または②心不全による入院の比率
結果:明らかにジャディアンスのほうが、偽物の薬より下に線があることが分かると思います🔥

 

 

 

 

医療用語説明
「心臓の駆出率」

 心臓が血液をポンプして体中に送り出す力や効率のことを指します。心臓の駆出率が保たれていると、体に必要な酸素や栄養が適切に供給され、心臓の病気や心不全のリスクが低下します。

 

「心血管死」

 心臓や血管に関連する原因によって引き起こされる死亡のことを指します。例えば、心筋梗塞心不全など、心臓や血管の疾患が原因となって生じる死亡を意味します。

 

 

 

 大事な結果なので繰り返しになりますが、この論文を要約すると、「ジャディアンス®は心臓の駆出率が保たれた心不全患者において、心臓の病気による死亡率や心不全による入院のリスクを減らす効果がありました。」

 

 この効果は、「糖尿病の有無にかかわらず一貫して」見られました。

 

 つまり、糖尿病じゃない患者さんにも心不全リスクがある方、心血管死がある方にはジャディアンスを積極的に投与すべき!

 

 

 

 

ジャディアンス®(SGLT2阻害薬)はまじですごいお薬🔥

 

 

 

 

 ということになります。これってすごいことです。

 

 ただ、「論文はあくまでもその論文での結果なので100%正確な結果ではない。」ということを頭に入れておく必要があります。

 

 この論文のエビデンスレベル(医学的根拠レベル)はかなり高い方。

 

 上の中程度のレベルです。

 

 解析方法は「二重盲検化ランダム化比較試験」

 

二重盲検化ランダム化比較試験

 二重盲検化ランダム化比較試験は、医学や科学研究において使用される試験デザインの一つです。

 

 この試験は、特定の治療や介入が効果的かどうかを調べるために行われます。

 

 以下でそれぞれの要素について説明します。

 

二重盲検化(Double-blind)
 二重盲検化とは、「試験の実施者=医師など」「参加者」両方が実験条件、例えば、「本物の治療薬」または「偽物のお薬」を患者様に処方しているかを知らない状態を指します。

 

 この方法は、主観的なバイアス*1「期待効果を排除するために重要」なのです。

 

 「参加者」が治療を受けているかどうかを知らないため、結果が客観的かつ公平に評価されます。

 

 図を見てもらえれば一発でどういうことか分かるでしょう。

 

 

 

 

 

二重盲検化(double-blind)

 

 

 

 

ランダム化(Randomization)
 ランダム化は、「参加者を異なる実験グループに無作為に割り当てる方法」です。

 

 この手法により、実験グループ間での偶然のバイアスを最小限に抑えることができます。

 

 ランダム化によって、個人の特性や予後の差異が均等に分散され、結果の比較がより信頼性のあるものになります。

 

 

 

比較試験(Comparative trial)
 比較試験では、複数の実験グループが設定されます。

 

 通常、「治療群=本物の薬と「対照群=偽物の薬」が含まれます。

 

 治療群は、新しい治療法や介入を受ける参加者で構成されます。

 

 一方、対照群は、標準治療やプラセボを受ける参加者で構成されます。

 

 これにより、

 

 「試験の実施者=医師など」「参加者」は、実験条件(治療またはプラセボ=偽物の薬)を知らないため、結果の解釈がバイアスを排除して客観的になります。

 

 また、ランダム化によって、個人の特性や予後の差異が均等に分散され、比較が公平に行われます。

 

 これにより、新しい治療法や介入の効果を確実に評価し、科学的な証拠を得ることができます。

 

 二重盲検化ランダム化比較試験では、以下の手順が一般的に行われます。

 

参加者の選抜

試験に参加するための基準を設定し、条件を満たす参加者を募集します。参加者は健康状態や病気の有無など、研究の目的に合致する基準に基づいて選ばれます。

 

ランダム化

参加者は無作為に治療群または対照群に割り当てられます。このランダム化プロセスにより、参加者の属性や特性が均等に分散され、偏りのない比較が可能になります。

 

 

治療群と対照群の介入

治療群の参加者には新しい治療法や介入が提供されます。一方、対照群の参加者にはプラセボ(偽薬)や標準治療が与えられます。治療群と対照群の介入内容は、参加者や実施者には明かされません。

 

 

データ収集

試験期間中、参加者のデータが収集されます。これには、症状の評価、生体検査結果、健康状態の記録などが含まれます。データは、参加者の個人情報が匿名化された状態で収集されます。

 

 

解析と結果評価

試験が終了した後、データは統計的な解析が行われます。

 治療群と対照群の結果が比較され、効果の有無や治療法の有用性が評価されます。この解析は、バイアスを排除し、科学的な結論を導くために厳密に行われます。

 

 

 二重盲検化ランダム化比較試験は、「偽薬効果(プラセボ効果)」「研究者の主観的なバイアスを排除」し、信頼性の高い結果を得るための重要な手法です。

 

 それによって、「新しい治療法や介入の効果を客観的かつ科学的に評価することが可能」になります。

 

 

 

あっぱれ!な論文で、あっぱれな解析方法二重盲検化ランダム化比較試験」
「あっぱれ!!」

 

 

 

 

 Abstract(アブストラクト)、つまり論文すべての要約を以下に記載します。

 

 Abstractには、背景+方法+結果+結論が、端的に記載されているので論文をかなり短い間で把握することができます。

 

 詳細を知りたい方はぜひ、以下のAbstractの日本語訳を御覧ください🔥

 

 結構、論文を読み慣れていないと難しいかもしれませんが、読んでいくうちに言い回しが大体同じであることが分かってきてすぐに論文を読むようにできるようになります📚

 

Abstract(要約)

背景

 心不全と左室駆出率が低下している患者では、ナトリウム-グルコース共輸送体2(SGLT2)阻害薬は心不全による入院リスクを減少させる効果があることが既に報告されていますが、心不全と左室駆出率が保存されている患者における効果は未だ明らかにされていません。」

 

方法

 この二重盲検試験では、ニューヨーク心臓協会(NYHA)分類II-IV度の心不全を持ち、左室駆出率が40%以上の5988人の患者を対象に、ジャディアンス®(1日10 mg)またはプラセボ(偽物の薬)を通常治療に追加してランダムに割り当てました。主要アウトカムは、「心血管死亡」または「心不全による入院」の複合評価でした。

 

結果

 中央値26.2か月の観察期間中、ジャディアンス®群の2997人中415人(13.8%)およびプラセボ群の2991人中511人(17.1%)が主要アウトカムイベントを発生しました。(ハザード比0.79、95%信頼区間[CI] 0.69〜0.90、P<0.001)。

 

 この効果は、主に「ジャディアンス®群における心不全による入院リスクの低下に関連している」ことを意味しています。

 

 また、「ジャディアンス®の効果は、糖尿病の有無に関係なく一貫」していました。

 

 「ジャディアンス®群では心不全による入院回数もプラセボ群よりも低かった」です。(ジャディアンス®407回、プラセボ541回;ハザード比0.73、95%CI 0.61〜0.88、P<0.001)。

 

 ジャディアンス®使用群では、合併症のない生殖器および尿路感染症、低血圧の副作用が頻繁に報告されました。

 

結論

 ジャディアンス®は、心不全と左室駆出率が保存されている患者において、心血管死亡または心不全による入院のリスクを低下させました。この効果は、糖尿病の有無に関係なく一貫していました。

 

 

 兎にも角にもの、「ジャディアンス®は良い薬」ということが分かって頂けたかと思います。ただし、尿路感染症を繰り返している方、ジャディアンス®にアレルギーのある方は当然適応外となります。

 

 

 ペンは剣より強し。

 

 

 大好きな言葉ですが本当です。

 

 

 偉そうにブログを書いていますが、毎日毎日新しい発見の連続です。

 

 

 なるべくわかりやすく書いているつもりではありますので、ぜひ最後までお読みになって、理論武装をしてクリニックに望みましょう!(医師にとっては怖いけど!患者様が論文名知っていたら🔥)

 

 以上

 

 皆様がいつまでも健康でありますように。

 

新宿内科 糖尿病・生活習慣病クリニック(新宿駅徒歩3分・西新宿駅徒歩2分)

統括院長 松谷 大輔拝

 

【クリニック情報】

ホームページ

shinjuku-naika.clinic

ネット予約

当院の強み

診療案内

アクセス

医師紹介

お問い合わせ

*1:

バイアスとは、研究において結果や判断に偏りが生じることを指します。つまり、研究結果が本来の真実や客観的な現実を反映していない状態です。

例えば、研究参加者の選び方に偏りがある場合、研究結果は一般の人々に当てはまらないかもしれません。また、研究者自身が意図的または無意識的に予想や好意を持っている場合、結果がその予想や好意に影響を受ける可能性があります。

バイアスがあると、研究結果が歪んだり、治療や介入の効果が実際よりも大きく見えたり、小さく見えたりすることがあります。そのため、結論や意思決定において正確さや信頼性が損なわれる可能性があります。

バイアスを最小限に抑えるためには、研究デザインや実施方法に注意を払う必要があります。例えば、無作為な選択や二重盲検といった手法を使用して、偏りを排除し、研究結果がより正確で信頼性のあるものになるよう努める必要があります。

 例:「酒を飲んでいる人が肺がんが多い」という結果には、「酒を飲む人にはタバコを吸う人が多い」というバイアスが存在している可能性があります。以下にその説明を行います。

 

 この主張では、「酒を飲む人々と肺がんの発症率が関連しているように見えます。」しかし、実際には、「酒を飲む人々の中でタバコを吸う人が多いという関連が存在する可能性があります。」

 

 タバコは肺がんの主要なリスク要因として広く知られています。多くの研究でタバコと肺がんの関連性が確認されており、喫煙は肺がんの発症リスクを大幅に増加させます。

 

 更に「酒を飲む人々の中には、タバコを吸う人が多い傾向がある」かもしれません。この場合も、「酒を飲むことと、肺がんの発症との間に直接の因果関係があるわけではなく、実際にはタバコの摂取が肺がんリスクを増加させている可能性が高いというわけです。

 

 このように、バイアスが存在する場合、要素を見落としたり、他の要因によって結果が歪められる可能性があります。

 

 適切な研究デザインデータの評価が必要であり、他の要因や関連性を適切に考慮することが重要です。